国依別宣伝使と言霊(ことたま)の神力 PART②

八百万の誠の神たちがよつて来て七十五声の言霊を上げたから岩屋戸が開いたのであります。天津神の霊をこめたる言霊によつて再び天上天下が明かになつたのであります。

決して鏡に映つたから天照大御神が自分でのこのこ御出ましになつたと言ふやうな訳ではありませぬ。

言霊の鏡に天照大御神の御姿が映つて、総ての災禍はなくなり、愈(いよいよ)本当のみろくの世に岩屋戸が開いたのであります。

〔第12巻第30章「天の岩戸」要約〕

ではなぜ、七十五声の言霊がみろくの世を開き、宇宙間で最も貴重な宝であるのか。それは、言霊により宇宙が創造されたからではないだろうか。

大虚空中に一点のヽ(ほち)忽然(こつぜん)と顕れ初めて◎(す)の言霊生まれ出で、◎の言霊こそ宇宙万有の大根源にして、遂に◎は極度に達してウの言霊を発生せり。ウの活動極まりてアの言霊を生めり。ウは降っては遂にオの言霊を生む。七十五声の神を生ませ給ひ、至大天球を創造した。

〔第73巻第1章「天之峯火夫の神」要約〕

一点のヽ(ほち)から◎(す)、ウ、ア、オの各言霊が順に生まれ、そして七十五声の神が生まれて至大天球が創造されたということである。

なお、「日本人は円満晴朗なる七十五声を完全に使用し得る高等人種」だとある(第32巻)。

また実際に、ヒルの国に起きた大地震を鎮めたのは、国依別と言依別の「言霊の神力」であった。

国依別が、国の大御祖国治立命、豊国姫命、国魂の神を念じ、霊力を籠めて天の数歌とウの言霊を発射すると、大地の震動や諸山の噴火、洪水がピタリと止まり、そこに国依別が現はれて天津祝詞や生言霊を宣ると、一切の地異天変が再び安静に帰したのは生言霊の神力である。

〔第31巻第3章「救世神」要約〕

出口聖師は、この霊界物語のヒルの国の大地震の箇所を、関東大震災のあった大正十二年九月一日の当日、震災発生の知らせがまだ届かない熊本県山鹿において、信者に読ませておられる。

また、出口聖師自身も入蒙の際、生言霊の力を示され、激しい暴風雨のなか天に向かって「ウー」と大喝されると、暴風雨は夢の如く消え去っている(入蒙記)。

〇水分(みくまりの)神(かみ)

ところで、琉と球の玉は、国依別の言霊により解脱した竜の腮(あぎと)から得たものである。一方、玉を二人に渡した竜は、三千年の三寒三熱の苦行を終了し一切の執着を去り、天(あめ)の水分(みくまりの)神(かみ)という降雨を調節される大神となられている(第27巻)。

なお、奈良吉野山にある吉野水分神社を、私は平成三十年八月に訪れた。「みくまり」は「みこもり」となまり子授けの神ともなり、現在の社殿は豊臣秀頼により創建(一六〇五)されている【註4】。私の妻の願いがかなったのであろう、妻が逝った後に上の娘が子を授かった。

吉野を訪れた翌日、神戸市三宮の祭神が稚(わか)日(ひる)女尊(めのみこと)である生田神社を参拝した。これが妻との最後の旅行先となったが、この生田神社もまた二つの玉に関係している。

言依別と国依別が、それぞれ琉と球の玉の精霊を腹に吸った後、この二個の玉の入った玉手箱を若彦と玉能姫が生田の森に持って行き、大功を顕している(第27巻)。

【註4】ウィキペディア

〇一輪の秘密

言依別が、「琉の玉は潮満の玉、球の玉は潮干の玉」だと言っている(第27巻)が、実は、この潮満の珠、潮干の珠が第一巻(第35章「一輪の秘密」)にすでに出ている。

そして「一輪の秘密」とは、この潮満の珠と潮干の珠、さらに真澄の珠の三個の神宝を、世界終末の際に世界改造のため大神が使用される御神業だと示してある。

また、紅色を帯びた潮満の珠は、厳の御魂とか豊玉姫神といい、純白色の潮干の珠は瑞の御魂とか玉依姫神といい、竜宮島ともいう冠(かんむり)島(じま)に納められている。そして、冠島の国魂の御名を海(うみ)原(ばら)彦(ひこの)神(かみ)や綿(わた)津(つ)見(みの)神(かみ)というとある。さらに真澄の珠は、鬼門島ともいう沓(くつ)島(じま)に納められている。

つまり、大本に現れられた厳瑞の御魂に真澄の珠を加えての御活動、いわば、大本の出現自体が「一輪の秘密」とも言える。

また、これらの冠島や沓島は、国祖国常立尊が神言を奏上しながら海上に投げられた国祖の冠と沓からできた島々である。そして、国祖の大神は沓島にご隠退されることとなるのである。

〇古事記と霊界物語

ところで、この霊界物語第一巻に出てきた潮満の珠や潮干の珠、豊玉姫、玉依姫、海原彦神、綿津見神は、古事記や日本書紀に出て来る名称で、神武天皇出生の前段を形作る重要な玉や人物である。また、古事記では「海幸彦と山幸彦」として美しい物語を為している。

一方、天照大神と素盞嗚尊との誓約(うけひ)をはじめ霊界物語で展開されるストーリーの多くが、記紀神話を基としたものになっている。

たとえば、古事記に「筑紫島に面四つ、筑紫国は白日別、豊国は豊日別、肥国は建(たけ)日(ひ)向(むか)日(ひ)豊(とよ)久(く)士(じ)比(ひ)泥(ね)別(わけ)、熊曾国は建日別」という島々の生成の箇所がある。これに対応するかのように、霊界物語第七巻(第五篇「亜弗利加」)にも「筑紫の洲に面四つ」とあり、日の出の神が筑紫の島を回り、白日別や豊日別、武(たけ)日向(ひむか)別(わけ)、建日別をそれぞれの国の守護職となして、純(澄)世姫命の神霊を国魂に祀る物語が展開されている。

また、霊界物語にある「言霊(げんれい)解(かい)」(第8巻・10巻)や「古事記略解」(第12巻)、「古事記言霊(ことたま)解(かい)」(第15巻)において、先の「天の岩戸開き」のように、言霊で岩戸が開いたという、古事記に関して独自の解釈がなされている。

このように、大本の教えは記紀神話、特に古事記と深く関わっている。教えを学ぶ上で、古事記を基本的な教養として身に着ける必要性を改めて感じる。

ちなみに、古事記の「海幸彦と山幸彦」の物語に、豊玉姫が夫山幸彦の火(ほ)遠(を)理(りの)命(みこと)を慕う歌がある。

  赤玉は緒(を)さへ光れど

白玉の君が装(よそひ)し貴くありけり

           〔古事記上巻「火(ほ)遠理(をりの)命(みこと)」四〕

赤い玉は、それを貫く緒まで光るほど美しいが、それにもまして、白玉のようなあなたの姿が気高く立派に思われるという意味【註5】だが、この赤玉と白玉は、先に霊界物語第一巻「一輪の秘密」の中で示された潮満の玉の紅色と潮干の玉の純白色を連想させる。  

【註5】次田真幸著 古事記(上)全注釈 講談社学術文庫

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