渋沢栄一と霊界物語 (2-1)
〔令和3年3月3日 藤井 盛〕
霊界物語第四十七巻(第一○章「震士震商」)に、この二月から始まったNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の主人公渋沢栄一をモデルにしたと思われる慾野深蔵が登場する。
「約五百の企業を育て、約六百の社会公共事業に関わった『日本資本主義の父』。青天を衝(つ)くかのように高い志を持って未来を切り開き…『緻密な計算』と『人への誠意』を武器に、近代日本のあるべき姿を追い続けた」(ネット:2021年大河ドラマ「青天を衝け」出演者発表!〈第1弾〉)とNHKは、世間で言われているのと同様に渋沢栄一を高く持ち上げている。しかし、渋沢栄一をモデルにしたと思われる霊界物語の慾野深蔵は「地獄道の大門口へ放り込」まれ、「トボトボと慾界地獄を指して進み行」っているのである。
ところで、霊界物語第五十巻(第一章「至善至悪」)に次のように示してある。
肉体人は如何なる偽善者も虚飾も判別するの力なければ、賢者と看做(みな)し、聖人と看做して、大いに賞揚することは沢山な例がある。
現界人は人を見る目がないということである。はたして、慾野深蔵のモデルが渋沢栄一であるのか、また、渋沢栄一も、偽善者を賢者・聖人と賞揚した例の一人ということになるのか追ってみた。
○名前と叙位叙勲
渋沢栄一のことを具体的に指摘した箇所が、霊界物語第四十七巻に出てくるが、この裏付けとなる事実を示した本がある。岩波新書の島田昌和著「渋沢栄一 社会企業家の先駆者」である。霊界物語と岩波新書で関係箇所を比較してみる。
まず、名前と叙位叙勲の履歴である。
①名前
〔霊界物語〕『其方は慾野深蔵と云つたな、幼名は渋柿(しぶがき)泥(どろ)右(う)衛門(ゑもん)と申さうがな』
霊界物語に出て来る名前は「渋柿泥右衛門」で、岩波新書に出て来るのは父親の名で「渋沢市郎右衛門」である。しかし、市郎右衛門は渋沢家で代々継ぐ名であり、渋沢栄一の名でもある。
〔岩波新書〕父は渋沢美雅といい、同時に当主として代々市郎右衛門を称していた。しかしながら栄一の父はこの家に生まれたわけではなく、村内随一の土地や財を保有している「東の家」と呼ばれた渋沢宗助の三男であり、婿養子に入って宗家を継いだのであった。
②叙位叙勲
〔霊界物語〕『俺をどなたと心得て居る。傷死位(しやうしゐ) 窘(くん)死(し)等(とう) 死爵(ししやく) 鬼族婬(きぞくいん)偽員(ぎゐん) 慾野深蔵といふ紳士だ』
慾野深蔵は自分を「傷死位 窘死等 死爵 鬼族婬偽員 慾野深蔵」と誇っている。これを実際に渋沢栄一が受けた叙位叙勲に当てはめてみる。
明治三十三年に受けた「正四位」が傷死位に、また、明治二十五年の「勲四等瑞宝章」が窘死等に、大正九年の「子爵」が死爵に、さらに明治二十三年の「貴族院議員」が鬼族婬偽員にそれぞれぴったり当てはまる。しかも、当ててある漢字が傷や死、窘(苦しむ)、鬼、婬(みだら)、偽などの悪い意味のものばかりである。これは渋沢栄一のことだろうか、あるいは叙位叙勲制度のことを言っているのであろうか。
さて、以上のことより、慾野深蔵が渋沢栄一を指しているのは明らかであるが、次からの説明で一層確かなものとなる。
○渋沢栄一の資産形成のカラクリ
NHKは渋沢を「約五百の企業を育て」と誉めているが、渋沢と企業との関係について霊界物語には次のように示されている。
③優先株
〔霊界物語〕『優先株だとか、幽霊株だとか申して、沢山な蕪(かぶら)や大根を、金も出さずに吾物に致しただらう』
昭和六十三年に発覚したリクルート事件では、政治家九十人に賄賂として未公開株が譲渡されているが、渋沢も優先株を金を出さずに自分のものにしていると霊界物語は言っている。
優先株は、配当利益を優先的に受けることができる株である。明治時代は高配当政策により資本家の資産形成がなされており、当然優先株がその手段となる。渋沢も収入の六十パーセントを株式配当により得ているが、渋沢には他の財閥とは違い、株を買う資産は元々ない。優先株をただでもらったという霊界物語の説明は筋が通っている。
では、どのように優先株を渋沢は得たのか。明治時代の株主総会は経営側と株主との利害調整が大変であったという。そうした中、企業の創立総会で渋沢の名が力を発揮し、経営側を後押ししている。
「総会屋」と言えば響きが悪いが、助けた経営者から謝礼として優先株をもらっていたのか、あるいは要求していたのか、いずれにせよ、優先株を企業からただでもらえる立場に渋沢はあったということである。
〔岩波新書〕◇明治時代には会社の高配当政策によって資本家の資産形成がなされた。渋沢においては家計に占める保有株式からの配当収入が大きく、渋沢の収入は、その六〇%強を保有する会社の株式配当などから得て。財閥や大商家、大地主のような富の源泉を持たない渋沢。
◇明治期の株主総会は、株主の利害の相違の表明があり。経営者と出資者の利害が著しく対立して紛糾する局面ともなった。特に創立総会において役員の決定を後押しすることが渋沢に期待された大きな役割であった。私欲の渦巻く中で発起メンバーの意思を通すために「渋沢栄一」の名が果たした役割は小さくなかった。
④金貸し
〔霊界物語〕娑婆で金貸しをして居つた時にや、寝とつても起きとつても、時計の針がケチケチと鳴る内に、金の利息が、十円札で一枚づつ、輪転機で新聞を印刷する様に、ポイポイと生れて来た
霊界物語にあるように、個人への多額の貸金を積極的に行っているのも渋沢の資産形成の特徴である。また、「十円札の印刷」という語句が霊界物語にあるのを見ると、今度、一万円札に渋沢の肖像が用いられることが皮肉のように聞こえる。
〔岩波新書〕個人への融資に消極的な金融機関に代わって個人に対する多額の貸付を積極的におこなう渋沢。「匿名組合」への出資が株式会社への出資を上回っていて、個人への貸付が出資に迫るほどの多さであった。
⑤長男の廃嫡
〔霊界物語〕『慾にかけたら親子の間でも公事(くじ)を致したり、又人の悪口を針小棒大に吹聴致し、自己の名利栄達を計り、身上を拵(こしら)へた真極道だらう』
公事とは裁判という意味である。渋沢は、家の資産管理のために親子及びその配偶者という身内で定めた約束事により、長男を廃嫡している。廃嫡とは嫡子の相続権を廃することであるが、我が子の幸せよりも家の財産が大事ということである。その欲深さを霊界物語は指摘している。
また、「極道」とはヤクザである。霊界物語は渋沢を「人の悪口を針小棒大に吹聴し、自己の名利栄達を計って身上を拵(こしら)へた真極道」と酷評している。「青天を衝(つ)くかのように高い志を持ち、人への誠意を武器にする」という世間の評価とは真反対の人物だということである。まさに「肉体人は如何なる偽善者も虚飾も判別するの力なければ」と霊界物語第五十巻にあるとおりである。
〔岩波新書〕渋沢同族会は、「同族の財産及年々の出入を監督せしむる」目的で、正式な渋沢の家族の資産管理をおこなっていた。同族会は課された役割を果たせないメンバーは嫡男といえども排除するという厳格な運用が課せられ。明治四十五年一月、栄一の長男・篤二の廃嫡方針を同族会で決定した。
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