『霊界物語』は皆日本の事 (3-3最終回)
孝明天皇は姫の狂気の如く駆け出した後にただ一人黙然として頭を傾け、吾身の運命はいかになり行くかと、トツ、オイツ思案に暮れいたる。そこへシヅシヅと入り来るは左守の司のクーリンスなりける。クーリンスはセーラン王の父バダラ王の弟であって、言わば王の叔父に当る刹帝利族である〈和宮の父は仁孝天皇で孝明天皇と和宮は異母兄妹〉。
『王様、今日はお早うございます。ただ今登城の際、館の者の噂を聞けば、堀河紀子様は何か王様と争いでもなさったと見え、血相変えて数多の家来どもの御引き留申すのも聞かず、蹴倒しなぎ払い一目散に岩倉具視の館へ帰られたさうでございます。ともかく七八人の家来を岩倉具視の館へ差向け、姫を迎え帰るべく取扱っておきましたが、一体如何な事をおっしゃったのでござりますか。右守の司、岩倉具視は大黒主様の大変なお気に入り、王様も左守の司もほとんど眼中にないと云う旭日昇天の勢でござりますれば、今、紀子姫の機嫌を損じ、具視様の立腹を招こうものなら、たちまち貴方の御身辺も危うござりましょう。誠に困った事ができました』
『何事も天命と諦めるより仕方がない。吾は決して顕要の地位を望まない。たとえ首陀〈スードラ、隷属民〉でも何でも構わぬ。夫婦が意気投合してこの世を渡ることができたならば、この上ない余としての喜びはないのだ』
『王様、何とした、つまらぬ事をおっしゃるのですか。貴方が左様なお心でどうしてこの入那の国〈京都〉が治まりましょうぞ。少しは気を強くもって下さらないと吾々左守の司の働きができないじゃありませぬか。王様あっての左守の司ではござりませぬか』
『もうこうなる以上は何と云っても仕方がない。紀子姫が帰った以上は、きっと岩倉具視は日頃の陰謀を遂げるは今この時と、大黒主の力を借って遂には吾地位を奪い、入那の国を掌握する事になるだろう。どうなりゆくも運命だと余は諦めている』
『右守の司〈右大臣〉岩倉具視がこの頃の傍若無人の振舞いは怪しからぬ、とは云いながら、もとを糺せば王様が鬼雲姫様の御退隠の件に就いて御意見を遊ばしたのが原因となり、王様は鬼熊別〈これも有栖川宮熾仁親王の投影か〉の腹心の者と睨まれ給うたのが起りでございます。悪人の覇ばる世の中、阿諛諂侫の徒は日に月に勢力を張り天下に横行闊歩し、至誠忠直の士は圧迫される世の中ですから、少しは王様もその間の消息をお考え遊ばし、社交的の頭脳になつて頂かねばなりますまい。クーリンスは心に染まぬ事とは知りながら、お家のためを思い剛直一途の貴方様に対し涙を呑んで御忠告を申上げます』
『たとえ大黒主に睨まれ、国は奪われるとも王位を剥がれるとも、たとえ吾生命は奪はれるとも、吾は断じて邪悪に与する事はできぬ。放埒不羈にして悪逆無道の限りを尽す大黒主の頤使に甘んずるよりも、鬼熊別様の趣旨に賛し、亡ぼされるが本望だ。あゝもうこの上そんな事は云ってくれるな』
〈国は奪われるとも王位を剥がれるとも、たとえ吾生命は奪はれるとも…は史実と照らすと切実〉『だと申してこのままに打ちやり置けば大変な事になります』
『余は昨夜の夢に、北光彦の神と云う白髪異様の神人〈松岡神使と同表現、小松林命と同神か〉顕われ来り、諭し給うよう「汝の一身を始め入那の国家は実に危急存亡の秋に瀕せり、これを救うに一つの道がある。それは外でもない、鬼熊別の神司の妻子なる黄金姫、清照姫(和宮の替玉・南部郁子)は、今や三五教の神力無双の宣伝使となっている。彼はハルナの都〈東京〉へ言霊戦を開始すべく出陣の途中、この入那の国〈京都〉を通過すべければ、彼を岩倉具視の部下の捕えぬ間に汝が部下に捜索せしめ、密かにこの館に誘い帰りなば、岩倉具視や堀河紀子の勢力いかに強くとも、到底敵すべからず。今や大黒主は鬼春別、大足別の両将をして大部隊の軍卒を引率せしめ出陣したる後なれば、今日の大黒主の勢力は前日の如くならず、早く部下の忠誠なる人物を選み、母娘両人の行手を擁し、この王城にお立寄りを願ふべし」との事であった。クーリンス、夢であったか現であったか、余には判然と分らないが、きつとこれは真実であらうと思う。其方はどう思われるか』
『王様もその夢を御覧になりましたか、へー、何と妙な事があるものですな。私も昨夜その夢を歴然と見ましたので、実は夢の由を申上げむと参ったのでござります。こりゃきっと正しき神様のお告げでござりましょう。左様ならば時を移さず忠実なる部下を選んで表面は母娘を生捕ると称し、迎えて参る事に致しましょう』
『しからばクーリンス殿、一時も早くその用意を頼む』
『はい』
と答えてクーリンスは恭しく暇を告げ一目散に吾家を指して帰り行く。
王はまた独り黙然として両手を組み、少しく光明にふれたような気分にもなっていた。
『昨夜の夢が実現したならば自分もまたこの苦が逃れられるであろう。うまく行けば再び和宮と添うことが出来るかも知れない』などと、頼りない事を思い浮かべながら色々と考え込んでいる。そこへ足音高く岩倉具視の一の家来と聞えたるユーフテスは、虎の威をかる狐の勢、王者も殆ど眼中になき有様にて、案内もなく襖をサラリと引き開け、
『王様、只今具視様のお使で参りましたが、貴方様は紀子様を虐待遊ばし、王者の身としてあるまじき乱暴をお働きなさったそうでござりますな。吾主人具視様は表向き貴方様の御家来なり、また堀河紀子様の父親なれば、王様にとってはお父様も同然でござりましょう。親として子の不埒を、何ほど王者なりとて戒められずにはおれないと云って、ハルナの都の大黒主様の御許に早馬使をお立てになりました。何分のお沙汰』あるまで別館に行つて御謹慎をなさりませ』と横柄面に打ちつけるように云う。その無礼さ加減、言語に絶した振舞である。王はカッと怒り、
『汝《なんじ》、臣下の分際として余に向って無礼千万な、左様な事は聞く耳もたぬ。ユーフテス、汝が主人岩倉具視に対して余は今日限り堀河紀子とともに暇を遣はす、一時も早く右守の司の館を立出で、何処えなりと勝手に行けと申伝えよ』
と声荒らげてグッと睨めつけ叱りつければ、ユーフテスは案に相違の王の権幕に縮み上り、頭をガシガシ掻きつつ、狼に出会うた痩犬のやうに尾を垂れ、影まで薄くなつてショビショビとして帰って行く。
『アハヽヽヽヽ、右守の司の悪人に仕えるユーフテス奴、余が一喝に遇うて悄気返り、初めの勢い何処へやら、スゴスゴ帰り行くその有様、ほんに悪といふものはマサカの時になれば弱いものだな、アハヽヽヽヽ』
と思わず知らず高笑いしている。そこへスタスタと足早に這入って来たのは和宮の妹セーリス姫なり。
なお、歴史を紐解けば、文久二年(一八六二)、五月一五日、カールチンとしての岩倉具視は左近衛権中将に転任しますが、八月二○日、左近衛権中将を辞任し蟄居します。同年、九月一日、私がサマリー姫と見る堀河紀子は、和宮降嫁を進めたという理由で、辞職・蟄居となり、文久三年に出家します。
『陛下、今日は御壮健なお顔を拝し、セーリス姫誠に恐悦に存じます。つきましては早速ながら、父クーリンスの命により女の身をも顧みず罷り出でました。岩倉具視は年来の野心を成就するは今この時と、東京へ早馬使を立て王様の廃立を図っておりまする。ついては吾父クーリンスはそれに対する準備も致さねばなりませず、家老のテームスに命じ黄金姫母娘の所在を探すべく準備の最中なれば、父が参る暇がござりませぬので不束なる女の妾が参ったのでござります。また父が幾度も登城致しますれば右守〈岩倉具視〉の身内の奴等に益々疑われ事面倒となりますれば、向後を慮り妾を代理として参らせたのでござります』
『あゝそうか。事さえ分れば女でも結構だ。時にセーリス姫、その方はユーフテスに今会わなかったか』
『ハイ、只今お廊下で会いました。大変な悄気方で帰って参りました。あの男は実に好かない人物でござります。毎日日々妾の許へ艶書を送り、それはそれは嫌らしい事を云って参ります。本当に困った事でござります』
『ホー、そりや都合のいい事だ。これセーリス姫、近う近う』
と手招きすれば、セーリス姫は「はい」と答えて王の側近くににじり寄る。王は姫の耳に口寄せ何事か囁けば、セーリス姫はニッコと笑つて打頷きこの場を立つて帰り行く。
〈セーリス姫はヤスダラ姫和宮の妹の設定ですが、柳沢明子を和宮(替玉)とすれば、昭憲皇太后美子や一条美賀子、徳川慶喜御台所が姉妹にいます〉
●孝明天皇を暗殺したのは伊藤博文か 『霊界物語41巻より推定』
~そして皮袋に二三合ばかりの水を入れておき、ソツと敷居に流し、戸をあける時、音をさせぬ様にして暗夜に忍び込み、敵情を視察するのが忍術使の職務であつた。そして敵の寝所に忍び入った時は、頭の方から進みよるのである。万一足の方から進む際、敵が目をさまし、起上る途端に其姿を認められる事を恐るるからである。頭の方から進む時は、敵が驚いて起上るを、後から短刀にて切りつくるのに最も便宜なからである。~クーリンスはセーラン王(孝明天皇)に面会し、種々と右守の司のカールチン(岩倉具視)が陰謀に備うべく、密議を凝らし、初夜頃漸く吾家に帰り、草疲れ果てて、グツと寝に就いていた。そこへ塀を乗り越え黒装束となってやって来たのがマンモスであつた。彼は型の如くクーリンスの寝室に忍び入り、鼠を放つて見た。第二回目に放つた鼠はうろたへて襖の破れ穴から隣の宿直役のウヰルスの間へ飛込んだ。ウヰルスはウツラ ウツラ眠っていたが、飛込んだ鼠が自分の顔を走つたので、フッと目をさまし、起出でて見れば合点の行かぬ鼠の行動、こりやキツト何者かが忍び入つたに相違ない……と、左守の司の寝室に耳をすまして窺つてゐた。そこへノツソリと黒装束で現はれた男、「ヤア」と一声、左守の司を頭の方から切りつけむとする。この声に驚き、矢庭に襖を押開け、夜具を抱いた儘、曲者を捩伏せ、短刀を奪い取り、直に後手に縛り上げて了っていいようなた。『霊界物語41巻』「7章忍術使」より
マンモスを伊藤博文と確信するのかもう一つの4理由も述べます。『霊界物語41巻』より
『貴方は寡欲恬淡な、チツとも欲のないお方と云つたのですよ。凡て世の中は捉まへやうとすれば、捉へられぬものです。旦那様は万事にかけて抜け目なく、よくない方だから王様の方から昨日の様にあんな結構なことを仰有るので厶りますわい。これを思えば時節は待たねばならぬものですな。(都々逸)「時世時節の力と云へど、よくないお方が王となる」あゝヨイトセ ヨイトセぢや。おい岩倉具視、貴様も一つ前祝に歌はぬかい。大蛇の子のやうにグイグイ飲んでばかり居やがつて、何の態だ。チとコケコーでも唄つたら如何だい、アーン』
マンモス (伊藤博文)は鹿爪らしく、
『飲む時には飲む、遊ぶ時には遊ぶ。然り而うして聊か以て唄ふべき時には唄ふのだ。俺も若い時や、千軍万馬の中を往来して来た英雄豪傑……ではない、其英雄豪傑の……伝記を読んで、チツとばかり感化力を養ふ……たと云ふチーチヤーさまだからな、エーン。貴様の如き燕雀輩の敢て窺知する所に非ずだ。(詩吟)「月は中空に皎々として輝き渡り、(伊藤博文)は悠々として酒杯に浸る。月影映す杯洗の中、絶世の美人吾傍に在り」とは如何だ、うまいだろう。俺の詩歌は而も特別誂えだからなア、エーン』
『貴様の詩歌はカイローカイローと紅葉林で四足の女房を呼ぶ先生の声によく似ているわ。オツとそのカイローで思い出した、俺も早くセーチヤンと偕老同穴の契を結びたいものだ。貴様のようなシヤツチもない詩歌を呻ると気分が悪うなってくるわい。シカのシは死人の死だろうよ。もつと生命のある歌を歌つたら如何だい、アーン』『霊界物語41巻19章当て飲み』
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