『霊界物語』は皆日本の事 (3-2)

『霊界物語』四一巻

●第一章 入那の野辺

…『婆羅門《ばらもん》教では教主の大黒主さまから一夫多妻主義じゃから、婦人は丸切り機械扱い〈性的奴隷扱い・千代田遊郭?〉にされているようなものだよ。婦人の立場として貞操蹂躙《ていそうじゅうりん》の訴えでもする権利がなくてはたまらないからだよ。しかし一夫一婦の道を奉ずる三五《あなない》教では妻の方から貴様の女房のように夫を捨て他の男と情を通じたり、夫を盲目にしよった時は、男だって矢っ張り貞操を蹂躙された事になるのだ。男の方からその不貞腐《ふてくさ》れの女房に対して、貞操蹂躙の訴訟を提起するのは当然だ。女ばかりに貞操蹂躙の訴訟権があるのは未来の廿(二十)世紀という世の中にて行われる制度だ。しかし婆羅門教は文明的進歩的宗教だと見えて、三十五万年も凡《すべ》ての規則ややり方が進歩しているわい。アハヽヽヽヽ』

『そうすると、鬼雲姫様は永らく夫の大黒主様と苦労艱難《かんなん》して、あこまでバラモンの基礎を築き上げ、ヤレもう楽じゃといふ間際になって、大黒主さまから追い出され、その後へ立派な若い石生能姫さまを女房に入れられて、自分は年を老ってから、アンナ残酷な目に合されていながら、なぜ貞操蹂躙の訴訟を提起なさらないのだらうかなア』

『そこが強食弱肉の世の中だよ。大黒主さまより上のお役もなし、これを制御する法律もないのだから、こればかりは致し方がない。司法、行政、立法の三大権力を握っているのが大黒主だから、これを制御し懲戒《ちょうかい》する権利ある者は大自在天¥梵天王《ぼんてんおう》、のちに常世神王とも言う。てんのう〈天王星・天皇制》から降り、北米(常世国)に出生。〉様より外にはないのだ。思えば下の者はつまらぬものだよ。鬼雲姫様は随分お道のためには沐雨櫛風《もくうしっぷう》、東奔西走《とうほんせいそう》して、ようやくあれだけの土台を築き上げ、今一息という所で放逐《ほうちく》とは余り残酷じゃないか。それだから婆羅門教は無道の教団だというのだ。これが○○教であったら大変じゃないか。部下の宣伝使や信徒が承知しないからなァ』…。

●第二章 入那城

入那の国〈京都〉のセーラン王の館は東西南に広き沼を囲らし、北の一方のみ原野につづいている。この国では最も風景好《よ》くかつ要害《ようがい》よき地点を選み王の館が築かれてある。セーラン王は早朝より梵自在天《ぼんじざいてん》の祀《まつ》りたる神殿に昇りて祈願を凝らし、終って吾居間に帰り、ドッカと坐して双手を組み思案にくれながら独言、

『あゝ世の中は思うように行かないものだなア。忠誠無比の左守の司クーリンスの娘和宮を幼少の頃から父王の命により許嫁と定まっていたものを、大黒主の神様に媚《こ》びへつらう右守の司カールチン〈岩倉具視〉の勢力日に月に増大し、ほとんど吾をなきものの如くに扱い、和宮をテルマン〈江戸〉国の毘舎シャール〈徳川家茂〉の女房に追いやり、わが最も嫌う所の右守の司〈岩倉具視〉が娘サマリー〈堀河紀子〉姫を后《きさき》に致したとは、実に下、上を犯すとは言ひながら無暴の極まりだ。あゝ和宮は今頃はどうしているだろう。一度姫に会って幼少からの吾心の底を打明かし、ユックリと物語って見たいものだが、吾は刹帝利《せっていり》〈『霊界物語』五四巻では、ビクトリア王となっており、ビクトリアはインドではなく、真実は中国を示すが、泰氏が日本の歴史を中国の歴史に置き換えたという聖師の論拠では、古代日本の支配者とも読める〉の王族、和宮は最早毘舎の女房とまでなり下った以上は到底この世では面会もかなうまい。一国の王者の身でありながら、一生の大事たる許嫁の最愛の妻に生き別れ、この様な苦しき月日を送らねばならぬとはいかなる宿世《すくせ》の因縁か、あゝ和宮よ、余が心を汲み取ってくれ』と追恋《ついれん》の情に堪《た》えかねて思わず知らず落涙《らくるい》に咽《むせ》んでいる。かかる所へ襖《ふすま》をサラリと引き開け、少しく顔色を変えて絹ずれの音サラサラと入り来りしはサマリー姫〈堀河紀子〉なりき。〈毘舎《びしゃ》・バイシャとはインド・ヒンドゥー教のカースト制度で、商人など平民を主に示します。徳川家茂はむしろ貴族身分であるクシャトリアに近いと思いますが、首陀・スードラ〈奴隷〉やブラフミン〈破羅門・司宰〉ではなく、徳川家の元元の出自が高い身分ではないのかも知れません〉。『王様、貴方のこの頃の御機嫌《きげん》の悪いこと、一通りや二通りではございませぬ。妾《わらわ》も日夜、貴方様の不機嫌なお顔を拝みましては到底やりきれませぬから、本日限りお暇《ひま》を賜《たまわ》りとう存じます』と意味ありげに声を震《ふるわ》せて詰るように云う。王は驚いてサマリー姫の顔をツクヅクと見守りながら、

『合点《がてん》の行かぬその方の言葉、何かお気に障《さわ》ったかなア』『いえいえ、決して決して気にさわるような事はござりませぬ。何と申しても誠忠無比の左守の司様のお娘、許嫁のおありなすった和宮様を悪逆無道《あくぎゃくぶどう》の吾父カールチン〈岩倉具視〉が放逐《ほうちく》して、貴方のお気に入らない妾《わらわ》を后《きさき》に納《い》れられたのですから、貴方の日夜の御不快は無理もござりませぬ。最早今日となっては妾もやりきれませぬ。互に愛のない、諒解《りょうかい》のない夫婦位不幸なものはござりませぬから、妾は何とおっしやいましても、今日限りお暇《ひま》を頂き父の館へ下ります』

『これ紀子、今さら左様な事を云ってくれては困るじゃないか。少しは私の身にもなってくれたらどうだ』

『はい、貴方のお嫌いな妾がお側に仕えていましては、かえって貴方のお気を揉《も》ませ苦しめます道理、妾の如き卑しき身分の者がヤスダラ姫の地位を奪い、この様な地位に置かれるのは実に心苦しうござります。提灯《ちょうちん》に釣鐘《つりがね》、月にすっぽんの配偶も同様、互に苦情の出ない間に別れさして下さいましたならば、妾は何ほど幸福だか知れませぬ。今貴方の独言《ひとりごと》を聞くとはなしに承まわれば、誠忠無比の左守の司の娘、和宮姫を吾父の岩倉具視が放逐し、気に入らぬ私、サマリー姫〈堀河紀子〉を后に納れたのは残念だとおっしゃったではございませぬか。何と云ってもお隠しなされても、もう駄目でござります。妾はこれから父の家に帰り、父より大黒主様へ伺いを立て、その上で妾の身の振り方を定めて頂きますから、何卒これまでの縁と思って下さいませ』

と早立上がろうとするを王は狼狽《あわ》てて姫の袖を引掴《つか》み、『そう短気を起すものではない。その方は私を困らそうと致すのだな』

『いえいえ、お困らし申す所か、貴方がお気楽におなり遊ばすようにと気をもんでいるのでござります。左様なら、御免下さいませ』

と王の手を振り放し、怒りの血相物凄《すご》く父の館へ指して一目散に帰り行く。

大本柏分苑

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