トランプ政権の登場は戦後の日米関係を見直す―いい機会ではないか 11/21 三上治

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 トランプの再登場は戦後の日米関係を見直すいい機会だ、と感じた、あるいはそう感じている人は少なくないはずだ。高市総理は「日米の黄金時代がやってくる」とはしゃいでいたが、とんでもない話である。誰かがこれは同盟ではなく、服従だと言っていたが、自発的隷属というべきことだ。僕はトランプが再登場し、彼の言動を見聞きするにあたってかつて批評家の江藤淳が戦後の日米関係の矛盾的実態を暴いたことを思い出した。それは戦後の日米関係が対等で自由な関係にあると言った理念が虚構に満ちたものであることを暴いたものだった。自由で対等な独立国家間の関係という理念の下にアメリカは戦後の占領から独立へ導いたとされた。が、アメリカが占領下でやった巧妙な検閲など自由の理念に反する行為をやっていたことを江藤は暴いた。アメリカは自由の理念の下で権力支配を巧妙にやっている、その欺瞞的構造を指摘したのだ。これは戦後の日米関係が自由で対等なものとする理念の下で成立してきたという欺瞞を暴くものであった。この理念の下で実体はアメリカの日本支配(支配と従属)の関係が実体であることを摘出したといえる。

 戦後の日米関係が自由で平等な関係という名の下で支配と従属という関係にあることはそれなりに認識されてきたことである。左右の反米派はあり、日米関係の見直しはいろいろと主張されてきた。これはなかなか広がらなかった。その一番のおおきな要因は政府から国民まで、国際関係の中で日米関係を基軸におくことが矛盾を持つにせよ、さしあたってはそれでいい(やむを得ない)とい

う意識が浸透していたからだと思う。この意識というか、壁が日米間兼の見直しという動きを阻んできたのだ。だが、いま、アメリカは「必要不可欠な国」といことから、「我慢のならない国」へと変化しているという記事をネットでみたが、

僕もそう思う。これはトランプの言動に人々が感じていることであり、アメリカに対する意識の変化である。

 アメリカに対する意識の変化がトランプの再登場によって進行していることは疑いない。これに対して批評家の佐藤優は次のように述べている。

「ロシア・ウクライナ戦争で、アメリカとヨーロッパの間に深刻な軋轢が生じている。政治家や有識者の一部に法の支配、民主主義などの普遍的価値観からはずれてきたトランプ政権のアメリカから距離を置こうという考えが出始めている。これは極めて危険だ。日米同盟の顕教の部分しかみていない一面的な見方だからだ。トランプ氏がアメリカ軍最高司令官であることを忘れてはいけない。いま。考えなくてはならないのは、トランプ氏から日本が<ウクライナやヨーロッパになびく信用できない国だ」と思われないようにすることだ。日本は躊躇せずに

アメリカの立場を支持することが適切だ。ヨーロッパ諸国は地理的要因、国力の

限界のために日本の脅威にならない。しかし、アメリカ潜在的に日本の脅威となりうるからだ。日本の外交目的は日本国家と日本国民の生き残りだ。観念論もしくは理想主義的日米同盟観(価値観の一致)からリアリズムに基づく日米同盟観(新帝国主義的国際環境での日本国家と日本国民(民族の生き残り)に視座を転換する必要がある。トランプ大統領時代のいまこそ日米同盟は日本の生命線であり、日本外交の公理系を形成いるという真実を忘れてはいけない)(佐藤優VS片山杜秀『昭和100年史』

 佐藤優は戦後の日米関係には顕教と密教があるという。顕教とは「太平洋戦争に敗北したあと、日本は国家体制を根本的に転換した。天皇は統治権の総覧者から国民統合の象徴になった。国民主権、民主主義、人権尊重が日本国家の基本的価値だ。これらは文明世界の基本的価値観とみなされているが、実際はアングロ。アメリカン(英米的)価値観に過ぎない」(前同)という。これに対して密教とは「太平洋戦争に敗北し、焦土となった経験から学ぶのは、アングロサクソン(とりわけ、アメリカ)とは絶対に戦争をしてはいけないということだ。そのために最も効果的なのは、ジュニアパートナーとしてアメリカと同盟関係を構築することだ。同盟関係にある国同士が戦争をすることはない。同盟関係でジュニアパートナーはシニアパートナーに主権の一部を自発的に委譲する。【中略】それを単純に対米従属と非難することはできない。アメリカのジュニアパートナーになることが国家と国民(民族)の生き残りにとって最も現実的な選択だからだ。

 佐藤はアメリカの大統領にトランプが再登場し。彼の言動が戦後の日米関係の表向きの理念が揺らぎはじめ、日米関係を見直そうという風潮がでてきたことを危険とみなす。それは日米が自由で対等な関係という理念が疑われだしたことである。彼はこの日米関係は顕教、要するに表向きにすぎなし、この価値観は普遍的なものではなく、アングロ・アメリカンの価値観にすぎないともいう。

戦後の日米関係は従属的関係に見えたにしても、アメリカとは戦争をしないという関係(密教的関係)があり、そのための同盟であったが、それが今、重要だという。日本が他の国家との戦争状態になったときの同盟(アメリカが日本を支援する、あるいはアメリカが日本を支援する)ではなく、日本とアメリカが戦争にならないための同盟だという。この解釈というか、見方は面白い。

たしかに、戦後の日米関係は二重の関係だった。ここで佐藤の言う顕教的な関係がその一つだ。日米が自由で対等な関係と言われ続けてきたことであるが、戦後の日本の国家の転換(天皇の統治の国家から戦後憲法下の国家)を根拠づけていた。ここには戦後の米ソ対立下での自由主義国家か社会主義国家かの選択が介在していた。日本が世界的には自由主義陣営に属することを根拠づけていた。

裏ではアメリカとの戦争を避ける道であつた。佐藤はウクライナ戦争以降、アメリカ外交においても、法の秩序、民主主義、人権といった価値観が後退し、力の論理が強調されるようになった。国際政治は大国間の力の均衡できまるという帝国主義の論理が蘇っているという。要するに国家主義による大国間対立が顕著になってきているということだ。そこで、アメリカとの戦争をしないという同盟関係が重要だという。自由陣営の属し、それゆえにアメリカと同盟をという関係は自由主義圏と社会主義圏の対立が解体(冷戦構造の崩壊)の後は、価値観の統一(法の支配)などとして主張されてきた。これは日本の世界的な立ち位置であり、外交の基準とされてきた。佐藤はそんなものは普遍的なものでなく、アングロサクソンの価値観であり、その内部でも対立を生みだしているもの(アメリカとEUの軋轢)だから、たいしたことはないという。それより日米関係も露骨な主権国家間対立が明瞭になってきたのだから、アメリカと対立を回避することが大事だ。アメリカとEUが摩擦をおこし、対立しても価値観での選択ではなく、戦争さける、という観点でアメリカと同盟を優先しろという。

 ここでの佐藤の論理に従えば、日米の戦争を避ける(アメリカは潜在的脅威)ためにトランプに同調し、アメリカの立場を支持することが重要だということになる。これは今、日米関係の見直しということヘの批判である。日本のアメリカと関係が従属と言われようと、それは戦争を避けるための自発的な選択であり、今こそそれが重要だというわけだ。この論理はリアリズム的な論理と言われるが、ここにはいくつもの疑問がある。まず、トランプの取っている政治、その権力的な所業を肯定するのか、どうかということがある。例えば、トランプとヨーロッパとのの軋轢という時、佐藤の言うように躊躇せずにトランプを支持することが適切なのか。どうか。これは彼の関税政策についてもいえる。トランプの政治的な言動についてはアメリカでも世界でも批判は強い。それは戦後に、日本がアメリカとの同盟の根拠となってきた国民主権、民主主義、人権尊重などトランプが壊していることだ。EUとアメリカの摩擦はそこが起因している。そうすると、トランプを受け入れ、同盟して行くことは、二つの問題がうまれる。

その一つは日本の戦後体制というか、価値観をどうするか問題。つまりトランプに合わせて変えていくということである。日本の戦後体制を支えてきた価値観には問題もあり、変革を要求されてもいる。だからといって、それをトランプの提起する方向に変えることはいいことではない。例えば、トランプが日本は国家防衛のため戦争できる体制にせよと言ってきた場合にそれに従うのか。(現在は防衛費の増額要求だが、それはもっとエスカレートするかもしれない)。それにもう一つ、アメリカが中国と対立し、戦争をはじめたら、アメリカは日本が中国に戦争をすることを要求する。(安倍晋三は集団自衛権の行使の解釈を変更し)、他国に戦争に介入できる道を開いた。例えば、アメリカと中国が戦争をはじめたら、アメリカ側に加担する道だ。これは、アメリカの戦争に日本が加担する道であり、トランプの要求に応じることだ。

 

今、高市の台湾有事における武力行使発言が物議をかもしているがこのことだ。中国の台湾への武力行使にアメリカが介入したら、日本はアメリカを守るために軍事行使をするということである。これはアメリカの武力行為に集団安全自衛権を行使して同調するということだ。アメリカはこういう形だけではなく、アメリカと中国の戦争を、日本に代理させて日本と中国を戦争させるということもやりかえない。アジア人同士を戦争させるやりかただ。トランプは中国と戦争する事も考えているだろうし、その時に、日本を参加させるだけではなく、日本と中国を戦わせようともする。これがアメリカの同盟の本音だ。佐藤のいうように日本とアメリカの戦争ということより、アメリカが他国(例えば中国)の戦争に日本を加わらせるという方が多いのだ。かつてのアメリカよりトランプのアメリカはその方向が強いのだし、そんなアメリカに従属する同盟を強めようとするのは危険である。日本は中国との戦争の可能性が強いが、その契機に中国とアメリカの戦争である。その時にアメリカ側に立たされるということであり、これは避けなければならない。そのためには戦後の日米関係をみなおすべきである。

 高市のトランプとの同盟強化は誰が考えても危険であり、今、見直さなければならないのだ。武市発言は台湾有事における発言は、アメリカを守るか。台湾を守るのかもはっきりしない。どっちにしても問題だが曖昧は一層危険だ。これは高市に中国関係に関する基本的な考えがないことを示している。台湾有事だというが、それはどういう有事であるのか、その時に日本はどう対応すべきかの基本的な考えがない。戦後の保守主義は反社会主義(反共産主義)ということで中国と対立してきた。これは日中国交回復と冷戦構造の崩壊で変わったのである。かつてアメリカは中国と反社会主義ということで対立をしていたが、それはかわった。現在もアメリカは中国と対立している。それは国家主義的な対立である。これはトランプになってから強まってきたが、そのまま日本はアメリカに同調して中国に対立をする必然性はない。ここのとは台湾問題についてもいえるのである。

 毛沢東政権下では台湾は中国革命(社会主義革命)から資本主義体制として残された体制であり、革命の継続としてこの体制は打倒対象だった。このことは逆

もいえた、台湾側からすれば大陸の政治体制は打倒の対象だった。この大陸の政権と台湾の政権の対立に対してアメリカや日本は戦後のある時期まで、社会主義を軸に対立し、日本やアメリカは台湾の政権を支持してきたが、これがかわったことは先に述べたとおりだ。しかし、中国と台湾の対立は続いているが、それは曖昧だ。鄧小平の時代には「一国ニ制度」の容認としてあった。そして習近平の時代になり対立は激しくなった。しかし、この対立は曖昧である。同じようにアメリカや日本のこの問題に対する考えは曖昧だ。高市が反中国であることは割と明確に思えるが、保守の慣習的な反社会主義であるようにおもえる。現在の習近平政権をどう見ているのかは曖昧だ。また、台湾問題に対する対態度も曖昧だ。惰性的な反社会主義―反中国は推察できるが、曖昧なままアメリカの対中国戦略に追随していくのは危険である。

大本柏分苑

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