小糸姫と友彦 ―霊界物語の表現を味わう― 藤井 盛(2-2最終回)
○臭いで捕まる友彦
友彦は、小糸姫と駆け落ちをしたシロの島(セイロン島)を出て淡路島に渡る。女たちを欺したことが曝かれ、便所の跨(また)げ穴から逃げる。友彦の情けなさは滑稽である。
「『俄(にはか)に大便が催して来ました。どうぞ便所へ往(ゆ)く間(あひだ)御猶予を願ひます』…と直様(すぐさま)雪隠(せついん)に入(い)り、跨(また)げ穴から潜(くぐ)つて外に這ひ出し」(二十三巻一四章「籠抜」)
しかし、友彦は明るい。ネタにして面白がっている。
「獅子奮迅の勢(いきほひ)で活動した結果、とうと糞塵の中に陥り、フン失の所だつた。アハヽヽヽ」
(二十三巻第一五章「婆と婆」)
加えて、友彦は、その臭いで隠れていたのを見つかる。
「『淡路島の洲本の酋長…の家来となつた清公、武公、鶴公の三人…極悪無道のバラモン教の宣伝使…霊隠(せつちん)の跨(また)げ穴より脱け出し…後を追つ駆(かけ)来(き)て見れば、嗅覚鋭利な此(この)犬の力によつて…糞の臭(にほひ)が此岩窟の中まで続(つな)がつて居(ゐ)る以上は…泥棒は当岩窟に居(い)るに相違御座るまい』」 (二十三巻一八章「波濤万里」)
私は、自分が拝読した霊界物語の録音を車の中で聞いているが、「糞の臭が此岩窟の中まで続(つな)がつて居(ゐ)る」という箇所を、笑いながら録音していた。
○恋心を細やかに描く
酋長の家来で、清公と鶴公が出て来たが、最初に紹介した「素尊山」の「屏風岩」で身投げをした宇豆姫と三角関係にあった二人である。
小糸姫は地恩郷の女王黄竜姫となり、二人はその左守と右守で、宇豆姫は梅子姫の侍(じ)女(ぢよ)である。宇豆姫は右守の鶴公を好いている。
「日夜(にちや)に慕(した)ふ鶴さまに 夢になりとも吾思ひ
伝へ給へよ三五(あななひ)の 道を守らす須勢理姫」
(二十五巻三章「鶍の恋」次も同)
しかし、黄竜姫は左守の清公と夫婦になるよう命じる。
「宇豆姫は胸に警鐘乱打の響き、地異天変突発せし狼狽(うろた)へ方をジツと耐(こら)へ、さあらぬ態(てい)にて胸撫で下(おろ)し、『ハイ、有り難う御座います。不束(ふつつか)な妾(わたし)の如き者を』」
その後、清公に代わって鶴公を左守に、また宇豆姫に、その妻になるよう黄竜姫が命じて、宇豆姫は悩む。
「宇豆姫は恋と義理との締木にかかり、何(なん)と言葉もなく計(ばか)り身を悶へ」 (二十五巻四章「望の縁」次も同)
しかし、鶴公は左守となるのを拒む。なお黄竜姫が命じると、宇豆姫は青淵へ身を投げる。
「宇豆姫は耐(たま)り兼ね、『何(いづ)れも様、是(これ)が此世の御(お)暇(いとま)乞(ご)ひ…』千仭(せんじん)の断崖絶壁より、渓間(たにま)の青淵目(め)蒐(が)けて、身を躍らし…『惟神霊幸倍坐世』と合唱し乍(なが)ら、ザンブと許(ばか)り落ち込んだ」
話はさらに展開し、宇豆姫と、宇豆姫を助けたスマートボールが夫婦となる。このストーリーの舞台となる断崖絶壁が、「素尊山」の「屏風岩」である。
恋心を細やかに描いた霊界物語の世界が、現実界と一体化している。霊界物語の不思議を改めて思う。
私はこの場面も車の中で録音を聞き、印象深く覚えている。 (参考:YouTube藤井盛)
○美と威厳が加わる黄竜姫
ジャンナ郷のテールス姫の夫となった友彦が攻めて来るのを見た黄竜姫が、月見の高殿から落ちる。
「火の車を挽(ひ)き連れ、青、赤、黒の鬼、虎皮(こひ)の褌(ふんどし)を締め、牛の如き角を生やし攻め来る恐ろしさに、身体忽(たちま)ち震動して、高殿より終(つひ)に顛落(てんらく)、人事不省に陥り」 (二十五巻一一章「風声鶴唳」以下も同)
その後正気に帰った黄竜姫は、友彦に与えた凌(りよう)辱(じよく)を反省している。
「月の鏡に妾(わたし)の古い傷がスツカリ写つた様な心持になり…悔悟の念に苦しむ時しも…四面(しめん)咫尺(しせき)暗澹(あんたん)となり…友彦は妾(わたし)が昔彼に与へた凌辱(りようじよく)の怨みを復(かへ)さむと…火の車を以て我肉体を迎へ来る其(その)恐ろしさ。罪にかたまつた肉体の衣を神様の御恵に依つて剥ぎ取られ」
しかし、実際には高殿から落ちてはいない。それどころか、一層の美や威厳が加わっている。
「鼈甲(べつかう)の如く身体(しんたい)半(なか)ば透き通りて一層の美を加へ、言葉も俄(にはか)に涼しく且つ荘重を帯び来たりぬ」
「一入立派な御顔色(おんかんばせ)、お身体(からだ)の恰好までも、何(ど)処(こ)ともなく威厳の加はつた」
黄竜姫は、神様に罪を剥ぎ取ってもらったと言っているが、執着心が幻覚を起こし、罪悪の凝固たる副守護神が取り除かれている。
「要するに黄竜姫…の本守護神は、依然として此高殿に其儘(そのまま)の体(たい)を現はし、嬉々として月を賞しつつありしなり。身体(からだ)に残れる執着心の鬼の為めに斯(か)くの如き幻覚を起し、又其罪悪の凝固(かたまり)より成れる肉体は、副守護神の容器として高殿の下なる千仭(せんじん)の谷間に突き落されたるなりき」
「斯(か)う迅速に向上遊ばすと言ふ事は、不思議でなりませぬ」と梅子姫が驚いているが、山賊の大頭目から宣伝使となるヨリコ姫女帝の改心が重なる。
「専制と強圧と尊貴を願ふ慾念と、自己愛の兇党連は俄(には)かに影を潜(ひそ)め、惟神の本性、生れ赤児の真心に立ちかへり、一身の利慾を忘れ、神に従ひ神を愛し、人を愛し万有一切を愛するの宇宙的大恋愛心に往生した」(六十七巻一章「梅の花香」)
(令6・8・30記)
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