大類善啓さんが 「エスペラント」を出版
葛飾区に住む大類さんが、左の本を出した。大類さんは、満蒙開拓団の悲劇を後世に残し
てゆく運動をしている方正(ほうまさ)友好交流の会の理事長でもあり、会報の「星火方
正」(せいかほうまさ)の編集長でもある。大類さんは、家族に満蒙開拓団に参加してい
た人もいないということで、いわば「義を見てせざるは勇なきなり」のような感じで、編
集を担当し、事務局長からついには理事長にもなって活動している。この会報は、もちろ
ん中心になる記事は満蒙開拓に関係するものだが、もっと広く戦争や民主主義、世界平
和などに関する記事も載せたいというので、木村護郎クリストフさんがエスペラント
について書いたり、そして私も最新号に「東日本大震災からの 10 周年を振り返って」
という文を書かせてもらったように、とても視野が広い。エスペランチストも何人も
会員になっている。昨年の関東大会では「満蒙開拓」をテーマに大類さんに分科会も
もってもらった。その大類さんがこの本の著者である。
私は、まずこの本の題名にびっくりした。なんとズバリ題名が「エスペラント」な
のだ。エスペラントを知っている人は、「ん?入門書か」と思いそうだ。エスぺラン
トという単語を初めて聞いたという人には、なんの話かわからないし、副題に「ホマ
ラニスモ」とあっても更に訳がわからないだろう。しかし逆に言うと、それはそれで
インパクトが強いとも言える。大類さんは週刊誌記者をしていたから、その経験から
の命名かと思ったが、そうではなくて出版社の発案だという。しかし読者をひきつけ
る巧妙な命名ではある。でも著者はエスペラント界で有名でもなく、優れた使い手と
して知られているわけではないので、一体どんな内容なのか?そんな若干の疑いの思
いで開いてみると、これが面白いのである。思わず、一気に読んでしまった。
内容は、6 月の関東大会で佐々木照央さんが講演する「日本における世界語界の奇跡
の人々」の予習のような内容である。多くが人物伝なのだ。取り上げられた人物は、
ザメンホフ、長谷川テル、由比忠之進、伊東三郎、山鹿泰治、出口王仁三郎、斎藤秀
一(ひでかつ)であり、そのほかの3章は、エスペラントの日本への伝来、中国との
エスペラントの交流、そして最後に「なぜエスペラントは普及しないのか」(木村護12
郎クリストフさんとの対談)に当てられている。「エスペラントの日本への伝来」の
章にも、二葉亭四迷や柳田國男、宮沢賢治、大杉栄も出てくるし、あちこちに、エロ
シェンコや高杉一郎の名前も著作と一緒に出てくるから、まさに、日本エスぺラント
界の「奇跡のような人々」の列伝になっているともいえる。
ザメンホフについては、エスペランチストならかなり読んでいるはずだから、そう
そう珍しい話でもないかもしれない。長谷川テルも有名であり、顕彰会もあって今で
も活動している。ある。また由比忠之進については、何年か前に「我が身は炎となり
て」を沖縄の比嘉康文さんが出版したから読まれた方も多いだろう。余談だが、私は、
これを読んで、しばらく比嘉さんと手紙のやり取りをしていたが、その後返事が来な
くなってしまった。斉藤秀一については、最近、「特高に奪われた青春」が出たし、
萩原洋子さんが研究を続けているから、かなり知られてきた。しかし、そのほかの人
については、名前は知っているが、どういう人でどんなことをした人か、と尋ねられ
ても、具体的に答えられる人はエスぺランチストの中にも少ないだろう。というよう
なことなので、このようにそれぞれが簡潔にまとめられているのは、私たちにとって、
自分が運動のどの時点に立っているのかを考えられる良いきっかけになる。
その上驚くのは、大類さん自身が、これらの人と面識があったり、同じ場所に居合
わせたことがあるということである。例えば、1984 年の国際ペン東京大会の際の、日
中文化交流協会主催の歓迎パーティーに大類さんも出席し、中国の有名作家の巴金さ
んと名刺を交換したり、「井上靖の『楼蘭』がエスペラントに翻訳されその前の日に
出版されたこともあって、エスペラント界の主要な人たちも参加していた」中にいた、
ということなのだ。その他「列伝」の中の人たちとの交流もあり、こうしたことで、
大類さんが列伝を書く気になったのかもしれないし、この「列伝」の登場人物を、読
者に身近な人として感じさせる要因にもなっているようだ。
というようなことで、一言でまとめれば、「エスペランチストはこの本を読んだ方
が良い」ということになるし、エスぺラントを知らない人にも、エスペラントの果た
してきた役割、また日本の民主主義の発展にエスペランチストがどうかかわってきた
のかを知ることになり、エスペラントをやってみようかをいう気になるかもしれない。
最後には「エスペラント『第一書』」の翻訳もついているし、さらに、日本語訳無し
の La Espero と La Tagiĝo の楽譜も載っている。私は、大類さんからただで送ってもら
ったのだが、それは、木村さんが対談の中で私に 2 行ほど言及したからである。しか
しそれに忖度してこの推薦文を書いているわけではない。念のため。
大類善啓著 「エスペラント 分断された世界を繋ぐ Homaranismo」
批評社 1700 円+税 ISBN 978-4-8265-0723-3 C0087
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